爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「感染症と文明」山本太郎著

アフリカなどで熱帯の感染症対策の経験をされ、長崎大学熱帯医学研究所教授の山本さんが人類の文明と感染症の関係について解説されたものです。
文明化以前の狩猟生活は数家族単位のごく少人数で移動しながら生活をしていたのですが、そういったときの方がかえって感染症にかかることも無かったと言うのは意外でした。もちろん獲物の量が十分でなければ栄養状態が悪かったのでしょうが。
農耕を始め、定住し人口が増えることで感染症が蔓延することにもつながりました。また、家畜を飼い始めることで動物からの病気にかかることも増えて行ったようです。
しかし、それらの病気で打撃を受けても一定の割合の人間は免疫を獲得しまた徐々に増えていきました。悲劇的なのはヨーロッパ人の進出によって急激に感染症の病原体に遭遇した各地の原住民で、ほとんど全滅した種族が各地にあったようです。

スペイン風邪というのも第一次世界大戦がなければ相当その流行の様相も変わっていたかもしれないということも初めて知りました。その後の世界的な感染症の流行も現代の人の移動の増加により危険性を増しています。

潜伏期間が長くなることで病原体と人間が共存できるというのも意外な一面です。日本の沿岸部に特異的に存在する成人T細胞白血病ウイルスは平均潜伏期間が50年以上なので発症しない場合も多いようです。もしこれが100年以上の潜伏期間になれば安定的に共存していることとなります。
よく中間宿主には病原性を発揮しないが、人間に感染すると病気になると言うウイルス病がありますが、これも中間宿主の潜伏期が長いと言うことなのかもしれません。
HIVももしも潜伏期が長くなるような変異がかかれば事実上無害になることもありえるということです。