爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

エネルギー文明論「最悪のエネルギー依存」

大まかに言ってエネルギーと人類文明の関係は薪炭文明から化石燃料文明へ移行し急激に発展したものと言えます。

表面的な観点では、これは機械文明、情報通信文明(つまり現代文明を大きく特徴付けているもの)につながっているものと考えられますが、実は人類の存続というものに一番悪影響を与えているのは食糧生産へのエネルギーの関与かもしれません。

薪炭文明の下では食糧増産は遅々としたものでしかありませんでした。日本で言えば江戸時代に広く実施された新田開発ですが、これが人力によるために速度が上がらなかったとだけ考えると見落としになります。
水田での水稲栽培ではそれほど目立たず、また限界が来るのも遅れますが、当時の農業での最大の問題点は肥料不足です。もちろん病害虫による被害も相当なものだったと考えられますが、肥料不足というものは常に存在しますのでより影響が大きかったのではないかと思います。
それが化石燃料文明に移行するに伴い大きな変化(進歩?だったのかどうか)を遂げました。リン鉱石、カリ鉱石を機械力を使って採掘し、燃料を使って大量に輸送すると言う影響は見えやすいものかも知れません。しかし、劇的に変化したのは実は窒素肥料であったものと思います。
肥料の三大成分と言われているのは窒素、リン、カリですが、窒素は根粒細菌による固定化(気体の窒素から固体の窒素化合物になること)以外には効果的な供給はなされてきませんでした。しかし、ハーバー・ボッシュ法という合成方法が開発され、大量に工業生産できるようになりました。この反応には実は高温・高圧が必要です。これに石炭などを燃やして高温の水蒸気を作る必要があります。つまり、これにもエネルギーを使わなければならなかったと言うことになります。

いずれにせよ、このようにエネルギーを大量に消費することで化学肥料を安価に作り出すことができ、農業の生産性は飛躍的に改善されました。また農薬の開発もそれよりは遅れて進みましたが、この生産にも大量のエネルギーが必要とされます。これも農業生産力を高めました。
それで何が起こったかと言うと人口の爆発的な増加です。この要因として、医療の進歩や衛生環境の改善が大きいとする人も多いようですが、実際は食糧の増加と言う要素の影響がさらに大きいものと考えられます。
もちろん、栄養不足で産まれてもすぐに死んでしまうようなかつての状況は悲惨であり、産まれて来た子供は誰もが天寿を全うできることに越したことはありません。その意味では現在の先進国は相当それに近い状況まで達することが出来たと言うことができます。
しかし、それもこれまでと同様のエネルギー供給が維持できればという条件付です。もしもそれが途絶えるか、そこまで行かなくても供給が減少したらどうなるでしょう。人口の圧力がかつて無いほど大きくなり、その人々が食糧を求めて動き出すのです。