免疫力がガンになりやすいかどうかに関わるとか、乳酸菌が免疫アップとか、IgEがどうのこうのといった、断片的な言葉は知ってはいても、たしかに本当に免疫とはどういうものかということは、知らなかったようです。
免疫の最初から、現状の高レベルの話まで、非常に分かりやすく書かれていて参考にできる本でした。
免疫という、非常に大切な生物の作用は今でも研究の最前線では多くの優秀な科学者が知力を尽くして激しい研究競争を繰り広げている分野ですが、本書の最初に書かれている「初期の生命は免疫を持たなかった」ということは、すっかり盲点になっていました。
それでは進化のどの過程から免疫を獲得したのか、これも非常に興味深い話でした。
単細胞生物から多細胞生物へ進化していくどこかで免疫を獲得した生物があり、そしてそれを得られた生物が生き残っていったのでしょう。
そのため、現在生き残っている単細胞生物の細菌なども免疫の仕組みを保持しているようです。
免疫の中でも「自然免疫」という仕組みは単細胞生物から昆虫類に至るまでの生物にも存在します。
細菌に感染するウイルスをバクテリオファージと呼びますが、それらを破壊する機能が細菌には備わっており、制限酵素という酵素はその働きをするようです。
これも免疫の一種といえますが、細菌にのみ存在しそれ以外の生物にはないようです。
免疫の研究においては、原索動物のナメクジウオやホヤを使っての解析が行われてきましたが、補体という分子を使ったものが中心になっています。
しかし、脊椎動物のような獲得免疫の機構は備わっていないようです。
こういった免疫システムは昆虫に至るまでの生物で同様です。
約5億年前に生まれた軟骨魚類という生物において、初めて「抗体」と呼ばれる新たな分子が作られるようになりました。
抗体は侵入してきた異物に合わせて作られ、鍵と鍵穴の関係で敵を無害化します。
そのため、一度作られるようになれば次からの侵入にはすぐに対応することができます。
脊椎動物には様々な抗体を作り出す機構が備わっており、それがその後の進化の主力となることができた理由の一つのようです。
脊椎動物の免疫細胞には、白血球(リンパ球、骨髄球他)があり、それらは骨髄で作られます。
骨髄と胸腺は一次リンパ器官と総称されます。
そこで作られた免疫細胞は全身のリンパ管をめぐり、リンパ節、アデノイド、扁桃腺などの二次リンパ器官に流れ着き、そこが侵入異物との戦いの場になります。
脊椎動物の最初に抗体を獲得した、無顎類(現在のヤツメウナギ等)では、マクロファージとB細胞による免疫でした。
それが進化が進むにつれ増えていき、鳥類や哺乳類ではさらに多種の免疫系を備えるようになってきました。
そのような哺乳類である人の体内で、病原体と免疫がどのような戦いを繰り広げるか。
まず侵入を防ぐ第一段階は粘膜と皮膚です。粘膜にある粘液には酵素や抗菌物質が含まれます。
体内に病原体が入り込むと、まず補体や好中球、マクロファージなどの自然免疫が対応します。
ところが自然免疫だけでは止められないほど強力な病原体であると、獲得免疫の出番になります。
病原体がいずれかのリンパ器官に達すると発動し、病原体の一部(破片)を樹状細胞が取り込むことによりキラーT細胞を作り出し病原体を破壊するようになります。
さらにB細胞が大量の抗体を作り出し、病原体を無毒化するようになります。
キラーT細胞、B細胞は記憶力を持っていますので、同じ病原体が再度侵入した場合は即座に対応できます。
このような強力な免疫システムですが、これが暴走してしまうこともあります。
それがアレルギーや自己免疫疾患といったものです。
スギ花粉などは本来は身体には無害なのですが、それを有害物と間違えた免疫システムが働きだし、過剰反応を起こします。
また、自己免疫疾患であるパセドウ病や全身性エリテマトーデスといった難病は自分の身体の細胞に対して免疫反応を起こしてしまいます。
元々、自分の細胞には免疫反応を起こさないという機構が備わっているはずでありそれを「自己寛容」と呼ぶのですが、これが何らかの理由で破綻した状態になるようです。
一方で、免疫が働かなくなる「免疫不全」という病気もあります。
これがウイルスの働きで起きるのがエイズであり、ウイルスが免疫系を破壊します。
元々はアフリカの奥地の霊長類のウイルスであり、それらの動物には病気を起こさなかったものが、人に感染するとこのような症状を起こします。
多くの治療薬が開発されていますが、エイズウイルスは非常に変異が速く完治までは至らないようです。
他にも抗体反応をめぐっては、花粉症治療薬やメタボ治療薬といった方向にも研究開発が進められているようです。
期待をして良いのでしょうか。
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